ウクライナの大学とオンラインで合同ゼミ(COIL)を実施しました
ウクライナの大学とオンライン合同ゼミ-緊急下での学びをいかに継続するか
総合人間科学部教育学科教授 小松太郎
教育学科開講科目である「国際教育開発学演習」では、2023年4月から5月にかけて、ウクライナの都市リビウに位置するウクライナ・カトリック大学(UCU)とオンラインで合同ゼミを行った。国境を越えて学生が協働して作業に取り組み、グローバル社会に必要な異文化協働能力を身に着ける学びの形態は、COIL(Collaborative Online International Learning: 国際協働オンライン学習)と呼ばれる。
2022年2月から始まったロシアによるウクライナ軍事侵攻は、ウクライナ国内の教育に甚大な影響を与えている。学校や大学がミサイル攻撃により被弾し、安全面から通学出来ない子どもや若者も多い。一方で、新型コロナ感染症拡大(パンデミック)のためにオンライン教育が進んでいたため、戦時中も可能な限り学びを止めない努力が続いている。リビウはウクライナ西部に位置しているため、今のところ戦争の被害を比較的まぬがれているが、ミサイルが着弾することもある。空襲警報が真夜中に流れる度に、大学の寮に住む学生は地下シェルターに避難し、安眠出来ない日も多い。時には地下シェルターで授業を受けている。
その様な状況下で、合同ゼミが行われた。上智からは教育学科3年生と4年生の計10名、UCUからは安全保障科目を履修する学生18名が参加した。準備にあたっては、演習を担当している小松太郎教授と、UCU科目を担当しているDmytro Sherengovsky教授が打ち合わせを重ね、両学生の学習環境や意欲関心などを確認し合い、テーマや内容を決めた。テーマは、「緊急期の教育継続」とした。参加学生は、紛争や自然災害、感染症拡大下でいかに教育を継続出来るか、それぞれの国や個人の体験、既存の研究成果を基に議論した。 オンラインのセッションは3回、お互いが集まりやすい週末に行われた。1回目はアイスブレークと個人体験の共有、2回目は緊急期の教育とアクセスや質、テクノロジーの活用、学習環境の安全確保といった特定課題について、そして3回目は両国の経験の共通点と相違点をテーマに小グループで議論した。最終セッションの後、各グループは議論の内容を基に、共同で小論文を執筆した。
この協働学習を通じて、両学生は地理的・文化的・歴史的に異なる二つの国の間にも共通する課題があること、互いの国や個人の体験から学ぶことが多くあることを理解した。上智の学生にとっては、戦争の只中にある若者がどう学んでいるのか、なぜ学んでいるのか知る貴重な機会となった。ウクライナの学生にとっては、外の世界とつながり、自身の経験を共有できる有意義な機会となったようである。UCUの男子学生は「自分は以前、大学に入ったら海外に留学することを夢見ていた。ウクライナでは今、男性は国外に出ることは出来ない。そんな中で今回は日本の大学の学生と繋がれて嬉しかった」という声があった。
オンラインの国際協働学習COILは、物理的に訪問することが不可能もしくは困難な土地の大学とも直接つながり、学生同士が協働し学ぶ機会を提供しうる。3回目のセッションでは、その前夜に空襲警報が鳴ったためか、参加出来ないUCUの学生が数名いた。急遽、新しいグループを作り内容も修正してディスカッションを行った。こういった経験も、世界で起きていることを肌感覚で知る機会となったようである。