アントニオ・グテーレス国連事務総長が来校しました
-特別講演「グローバル課題:『人間の安全保障』の役割」と学生との対話-

「グローバル課題~『人間の安全保障』の役割~」

アントニオ・グテーレス国連事務総長

2017年12月14日、本学は国連事務総長として初来日したアントニオ・グテーレス氏をお迎えし、学生と市民を対象とした特別講演会「グローバル課題~『人間の安全保障』の役割~」(Special Lecture “Global Challenges: The Role of Human Security”)を開催しました(後援:外務省、国連広報センター)。

2017年にオープンしたソフィアタワーの101教室には、600人もの学生や市民、専門家や、国連の関係者、NGOの人たちが集まりました。本講演会は、本学グローバル教育センターの東大作教授がニューヨークの国連本部に研究発表のために訪問した際に国連事務総長室に直接交渉を行い、実現に至りました。

曄道佳明学長

特別講演に先立ち、曄道佳明・上智大学学長が歓迎の挨拶を行いました。曄道学長は、国連事務総長の上智大学への訪問に心から感謝の意を伝えた上で、国連事務総長の「人間の安全保障」をテーマにした講演が、将来の課題にどう向き合えばよいか、私たちに指針を示してくれるはずだと期待を述べました。

(曄道学長のスピーチ全文はこの記事の最後にあるPDFファイルからご覧いただけます)

東大作国際協力人材育成センター副所長

続いて、東大作国際協力人材育成センター副所長が、グテーレス氏が1995年から2002年までポルトガル首相を務め、2005年から15年まで国連難民高等弁務官を務めたことを紹介。そして2016年の事務総長選出プロセスにおいて、国連加盟国が候補者全員に対し質問し答えてもらう場を国連総会が設定したところ、グテーレス氏の話を聞いた圧倒的多数の加盟国が支持に回り、事務総長に選ばれたことを強調しました。

(東副所長の紹介文全文はこの記事の最後にあるPDFファイルからご覧いただけます)

特別講演の中で、グテーレス氏は、今日のグローバル課題・脅威として以下の5つを挙げました。(1)北朝鮮核危機を含む核の脅威、(2)軍事紛争や内戦の複雑化、(3)地球温暖化、(4)グローバル化と格差の拡大、(5)移民や難民による国家間の緊張の高まり、などです。グテーレス氏は、これらの複雑に入り組んだ脅威や課題に、国際社会としてまとまって対応するためには、「人間の安全保障」の概念が決定的に重要である、と述べました。その理由として、「人間の安全保障」は人間の「尊厳」に根差した概念であり、国連加盟国が一致して支持しているコンセプトであることを指摘しました。「『人間の安全保障』という概念への国際社会の支持は、疑問の余地がない」と明言しました。

その上で、紛争が起きてから対処するよりも、紛争が起きる前に「予防」することが決定的に重要だと強調しました。そして「人間の安全保障」というコンセプトは、様々な国家やアクターを「結びつけるコンセプト(unifying concept)」であり、紛争予防、持続的開発、持続的平和作りなどを相互に連携して促進していく上で、極めて有効なコンセプトであると指摘。「人間の安全保障」というコンセプトを軸に、グローバルな課題や脅威に対応する、経済的・社会的・政治的状況を作り出していくための戦略や行動計画を、今こそ加盟国や国際社会は打ち出すべきであると訴えました。

またグテーレス氏は、「人間の安全保障」という概念を発展させるために日本が果たしてきた役割について述べました。「人間の安全保障」というコンセプト自体が日本で作られ、日本が主導して国連の中に「人間の安全保障」を実現するための基金やメカニズムを作り、かつこのコンセプトを基に世界中で事業を行い成功させていると称賛しました。そして国連と国際社会は、この人々を結びつけるコンセプトである「人間の安全保障」を、グローバルな課題や脅威に対処するために更に活かしていくべきだと主張しました。

最後にグテーレス氏は、大学や市民社会が「人間の安全保障」についての知的な議論を続け発展させることで、世界中の多くの政府が、この概念を使って紛争予防、持続的開発、持続的平和作りというグローバルな課題に取り組むことを促すことができるはずだと、会場を埋め尽くした研究者や学生達に向けてエールを送りました(国連WebTVに本講演の動画が掲載されています。記事下のリンクよりご覧いただけます)。

特別講演会は30分間にわたり、本学の植木安弘国際協力人材育成センター所長が司会を務めました。

第2回小学生/中学生「国連壁新聞」全国大会受賞者とともに

講演の後、外務省が実施した第2回小学生/中学生「国連壁新聞」全国大会で外務大臣賞と優秀賞を受賞した小中学生7人と国連事務総長が、記念撮影を行いました。

国連事務総長と30人の学生の懇談会

(左から)高祖理事長、グテーレス氏、曄道学長

その後グテーレス氏は、17階のファカルテイクラブに上がり、本学のメモリアルブックに署名し、曄道学長や高祖敏明上智学院理事長と記念撮影を行いました。

それからグテーレス氏は、本学を含む国連アカデミックインパクトに加盟する13の大学から参加した約30名の学生と懇談を行いました。司会を東大作国際協力人材育成センター副所長が務め、30分間にわたり、国連事務総長と学生の間で熱心なやり取りが繰り広げられました。

国連が紛争当事者の橋渡しや調停をする役割について問われたグテーレス氏は、多くの紛争当事者が、「軍事力によって戦争に勝利することが可能だ」と考える傾向が強まり、さらに紛争の要因の複雑化も伴って、国連による橋渡しや調停が非常に難しくなっていることを率直に語りました。そして、戦争に真の勝利者がいないことを如何に紛争当事者に理解してもらうかが、極めて重要だと話しました。

北朝鮮の核危機について問われたグテーレス氏は、北朝鮮問題については、国連安全保障理事会が一致団結していることが決定的に重要であると指摘しました。同時にグテーレス氏は、外交的な努力によって平和的に解決することの重要性も強調しました。また、元兵士の精神的なトラウマへのサポートについて問われたグテーレス氏は、紛争の被害者や元兵士への精神的なケアやサポートの必要性と、実際に行われている支援の間にギャップがあるという認識を示しました。そして、元兵士をはじめ支援を必要としている人たちへのサポートができる体制と基金を整備する必要性を訴えました。

紛争予防の具体的な方法についてグテーレス氏は、紛争予防を実現するために必要なことは多岐にわたるとし、具体的には、経済的発展や若者の雇用を増やすことも紛争予防につながるし、若者が過激化することを防ぐ教育も重要だとしました。そして「調停によって紛争を予防することも可能だ」とし、紛争予防や調停の能力を向上させることは、国連事務総長として最も重要な課題の一つであると決意を述べました。

最後にグテーレス氏は、日本の学生達にメッセージを送りました。グテーレス氏は、日本人である以上、日本人としての政治的、社会的な活動を十分に行うことが重要だとまず述べました。その上で、「日本だけを見るのではなく、世界を見て下さい」と語りかけました。「世界がこれだけ1つにつながっているとき、世界で起きていることは、否応なく日本での生活にも影響するのです」と、グテーレス氏は強調しました。そして、「日本人として精いっぱい役割を果たしてください。同時に、世界に生きるコスモポリタンとして生きてください。(be“full citizens of Japan”, but also “full cosmopolitans of the world.”)」と熱く語りました。

(国連WebTVにこちらの対話の動画が掲載されています。記事下のリンクよりご覧いただけます)。

対話の締めくくりに、東副所長が、このように学生と膝をつきあわせて対話する機会を作ってくれたグテーレス国連事務総長に心から感謝していることを伝え、拍手の中、会は終了しました。

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