2025年度 実践型プログラム「フィールドワークの実践を通じて学ぶマレー世界」を実施しました
~14日間の現地生活を通じて学ぶインドネシア社会~
プログラムの特徴
本プログラムは、協定校であるサナタダルマ大学を拠点として、インドネシア語の語学研修・文化体験セミナーの講座受講および市内各地でのフィールドワークの実践を行うプログラムです。
本プログラムの最大の特徴は、文化人類学のフィールドワーク手法を実践的に学ぶことを目的とし、学生・教職員を含めた参加者全員がホームステイを通じて現地の家庭に滞在し、ホストファミリーと日常生活を共にしながら、現地語や現地社会への学びを進める点です。そのため、参加者は1人1冊のフィールドノートを手渡され、現地社会の生活に身を置く中で観察したことや体験したことを記録し、自らの気づきを言語化していきます。
2週間のプログラム期間のうち、前半1週間は大学でのインドネシア語講習と文化体験セミナーを通じて、語学スキルの向上と現地文化への理解を深めました。また、後半1週間では大学から離れた市内各地のサイトでのフィールドワークを実施しました。
インドネシア語の語学講習
事前のプレイスメントテストの結果に基づき、3つのレベル別クラスに分かれて少人数制クラスでインドネシア語の文法や会話のトレーニングを実施しました。参加学生には、インドネシア語既修者だけではなく、今回のプログラムで初めてインドネシア語に触れる学生も含まれていましたが、現地講師による丁寧な指導や会話・文法等の実践的なトレーニングにより、プログラム終了時には、インドネシア語での日常会話やセレモニーの挨拶ができるレベルまで語学力を高めることができていました。

文化体験セミナー
また、語学を学ぶだけでなく、インドネシア文化を体験する機会として様々なセミナーが実施され、バティック*工房での染色体験、ガムラン*講師の指導の下での学生全員でのガムラン演奏体験、ジャムウ*の調合・試飲を体験しました。


*バティック:ろうを使って模様を描き、染料で色をつけ、ろうを落とすという工程を繰り返すことで、複雑で美しい柄が描かれるインドネシアの伝統的な染色技法で作られた布地。ユネスコの無形文化遺産にも登録。
*ガムラン:イドネシアの伝統的な打楽器を中心とした合奏音楽、およびその楽器群の総称。金属製のゴングや鉄琴などが特徴で、儀式や舞踊、影絵芝居(ワヤン・クリ)の伴奏としても演奏される。
*ジャムウ: インドネシアに古くから伝わる、天然の植物や香辛料などを調合して作られる伝統的なハーブ薬。現地の人々の間では、日常的に健康維持や美容、病気の治療などで飲用されています。
また、文化体験は体験プログラムだけでなく、サナタダルマ大学の現地学生との交流プログラムも実施しました。現地学生とのディスカッションを通じて、インドネシア各地の食文化について学んだほか、インドネシア語でグリンダム(Gurindam:インドネシアなどのマレー語圏に伝わる2行1組の短い形式で、韻律や音節数の制約を守りながら、簡潔な言葉で、深い教訓や哲学をリズミカルに表現した詩)を創作するワークショップを通じて、インドネシアの言語による文化表現を体験しました。


フィールドワーク
プログラム後半の1週間は、大学を離れて市内各地でのフィールドワークを実施し、知的障がい者の自立支援を行うNGOや、難民支援を行うイエズス会のNGOなどを訪問し、現地の社会課題の解決に取り組む活動について学習しました。また、郊外にある世界文化遺産のボロブドゥール遺跡(世界最大級の石造の仏教遺跡)も訪問し、ガイドの解説を通じて、当時の仏教とヒンドゥー教の共存や、その後のイスラム教の広がりなど、インドネシアの歴史と文化が重層的に築かれてきたことに触れる機会となりました。



また、プログラム最後のフィールドワークでは、ジョグジャカルタ市内で最も古いローカル市場であるブリンハルジョ市場を訪れ、現地講師から指定された課題に対して、習得したインドネシア語を使って市場の人々とのコミュニケーションや店主との価格交渉を行いながら、限られた予算内で指定された物品を購入する課題実習に取り組みました。

プログラムに参加した学生の気づきと学び
本プログラムで、学生たちは、ホームステイ先でのホストファミリーとの日常生活や、サナタダルマ大学の講師・学生との交流、フィールドワーク先などでのインドネシアの人々とのコミュニケーションを通じて、日本社会とインドネシア社会との間に存在する様々な面での文化的な差異に多くの気づきを得ることができました。
例えば、学生の声で、特に印象深かったのは、インドネシアの宗教文化に関する気づきです。インドネシアでは人々は何らかの宗教に所属することが社会的前提となっており、毎朝早朝から響くイスラム教の礼拝の声が聞こえる一方で、キリスト教とのホームステイ先の各家庭においては家の中にマリア像と祭壇が設けられている等、インドネシアの生活において日常的にある宗教の存在に触れ、日本の宗教観・生活習慣との違いを肌で感じる機会となっていました。しかしまた同時に、イスラム教が多数派である社会でありながら、キリスト教徒も普通に同じ社会で生活しているインドネシア社会における宗教的な調和や、あるいは、マレー系だけでなくオランダ系や中華系など様々なルーツを持つ人々が調和して共存している現実-この宗教的・民族的多様性が調和しているインドネシア社会の様相は、学生たちにとって新鮮な驚きと気づきを得る機会ともなっていました。
また、今回のプログラム期間中にはインドネシア全土で政治的な大規模なデモが発生する場面もありましたが、学生たちは現代のインドネシア社会が直面する政治的課題の一端を目の当たりにすることにもなり、調和する社会の背景で揺動するインドネシア社会の複雑なダイナミズムを体験することとなりました。

本プログラムは今年度が初めての実施でしたが、参加学生にとっては、インドネシア語の語学力向上はもとより、インドネシア社会に身を置く経験が異文化理解と国際感覚を養う極めて貴重な学習機会にもなりました。フィールドワークを通じて身につけた観察力と、そしてジョグジャカルタで出会った人々との交流や共有した数々の体験は、学生たちの今後の学びに大きな影響を与えることと期待されます。
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