高度経済成長による社会情勢の安定、それにともなう学生数増加により学生寮の需要は高まることになります。こうした状況をうけて上智学院は、戦災で焼失した校舎の再建に着手し、1956年、男子学生寮をそなえた上智会館を竣工します。学生寮に入寮した学生たちは、舎監の指導のもと自主的な寮運営を行っていました(※上智会館には、学生寮のほか学食、購買なども置かれました)。
このような学生寮のあり方に変化が生じるきっかけになったのが、大学教育の「国際化」です。1970年、OECD教育調査団が来日し、日本が世界の一員として教育面における国際協力が必要であると指摘されると、国の中央教育審議会などが教育の国際化に関する様々な提言を行います。これらの提言をうけて、1983年に政府の諮問機関である「21世紀への留学生政策懇談会」が「21世紀の留学生政策に関する提言」をまとめます。この計画は、21世紀はじめまでに10万人の留学生受け入れの実現を目指すというもので、日本の留学生政策のなかで画期的な提言といえます。上智大学においても1971年、他大学に先駆けて外国人入学試験制度を導入しました。
本章は、1956年の上智会館建設から、大学が「国際化」を本格的に指向する1980年代後半までの時期を対象に、学生寮に暮らした人々の営みを紹介します。
カマボコハウスの学生たちのために、新たな学生寮の建設に尽力したのは、当時舎監長をつとめていたボッシュ神父でした。
左の新聞記事は、スチューデント・カウンセラーとしてのボッシュ神父について紹介したものです。
このなかで、彼は新しい学生寮について、「大食堂に、また将棋やたまつきまで出来る娯楽室もあるものをゼヒ〔ママ〕作りたい」と述べています。
会館内に設置された学生寮は、「ボッシュタウン」と聖アロイジオ塾の学生たちも入寮し、新たな交流の場となりました。
「眠気を破るエンジンは、オヤジの自慢のオートバイ、それでも舶来ドイツ製~♪」
「エイプリル・フールにはいつもだまされた・・・」
寮の学生たちに「オヤジ」と親しまれたボッシュ神父は、1957年11月28日急逝されました。左の写真は逝去の1年後に発行された「上智大学新聞」です。ボッシュ神父とのユーモアに溢れ、かつ心温まるエピソードは、この記事だけでなく寮の十周年記念誌にも数多く掲載されています。
寮は舎監(その多くがイエズス会神父)と寮生たちの自治組織によって運営され、彼らは寮方針の作成、女子寮(明泉・榎寮)との交流、寮祭・周年記念行事の実施など多様な活動を展開していました。
こうした自主性を重んじる姿勢により、1960~1970年代の学生運動の時代を経て学生寮は、大学のなかでもある種特別な空間となっていきます。下で紹介している写真からも、当時の寮生たちの活き活きとした様子が伝わってきます。
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1971年、上智大学は外国人入学試験制度を採用し、留学生への門戸を開きました。それにともない、学生寮も1975年、米国・ウィスコンシン大学からの留学生5~6名を条件付きではじめて受け入れます。その後、交換留学協定校の増加にともない、1986年7月に大学は正式に「学生寮への外国人留学生受け入れに対する方針」を決定し、主に協定校の交換留学生の入寮を許可することになります。なお「寮史」は、この年を「学生寮国際化元年」と位置づけています。
左の資料は、当時の舎監が学生寮への1986年の外国人留学生正式受け入れまでの経緯をまとめた文書です。これによれば、交換留学協定校が増えていくのにともない、様々なタイプの留学生が増えたため、舎監たちが当時の副学長と協議し、1986年7月「学生寮への外国人留学生受け入れに対する方針」を取り決めました。
この方針の要点は以下のとおりです。
①Degree Student(大学正規生)は日本人学生と同様に、学生寮入寮選考委員会の選考に合格し、舎監長の許可を経て正規の寮生として取り扱われる。
②交換留学生(大学非正規生)も①と同様の選考により決定。その上限は15名で、学年集会、寮生総会での決議権はない。
③Non Degree Student(大学非正規生)も①・②と同様の選考方法により決定。ただし、その入寮者数は極力おさえる。
このように学生寮は、大学の積極的な留学生受け入れ方針をうけた「国際化」により「新たな時代」へと歩みはじめることになります。